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東京医科歯科大学、ミトコンドリアCav1.2カルシウムチャネルの神経変性疾患における役割を解明

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科細胞薬理学分野の田邉勉教授、三枝弘尚助教授、王馨爽大学院生らの研究グループは、ミトコンドリアに発現するL型カルシウムチャネルのCav1.2が神経変性疾患において果たしている役割をつきとめた。

 本研究は運営費交付金および文部科学省の科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたものである。


■研究成果の概要

 本研究グループは、まず、パーキンソン病の病態と密接にかかわるミクログリアにおいてL型カルシウムチャネルの1つCav1.2が発現していることを見出した。次にL型カルシウムチャネル拮抗薬のミクログリア活性化に対する影響を培養ミクログリア細胞で調べた結果、L型カルシウムチャネル拮抗薬は、M1型活性化を促進し、M2型活性化を抑制することが明らかになった。この結果からミクログリアのL型カルシウムチャネルを抑制すると神経変性が起きやすくなることが予想された。

 この仮設を実証するために、Cav1.2チャネルの発現を時期特異的に、さらにミクログリア特異的に抑制可能なトランスジェニックマウスを(以下、Cav1.2 KD マウス)を作製した。そして、MPTPという黒質のドーパミン神経細胞を選択的に障害する薬物を投与して、パーキンソン病様の病態を引き起こし、Cav1.2 KD マウスのパーキンソン病様症状がどのように変化するかを調べた。まず行動学的実験では、Cav1.2 KD マウスの行動失調は、野生型マウスと比べ激しいことが観察された。また、組織学的解析から、黒質のドーパミン神経細胞の数や線条体のドーパミン神経繊維終末の数が、Cav1.2 KD マウスにおいて野生型マウスより少ない傾向が見出された(線条体では黒質から投射されるドーパミン神経の終末が観察される)。


Cav1.2 KD マウスではMPTPによるドーパミン神経の細胞死が増強される

 さらに、ミクログリアの活性化状態に特徴的なマーカ遺伝子の発現を調べたところ、Cav1.2 KD マウス黒質では野生型よりM1型活性化のマーカを発現するミクログリアの数が20%程度多く、M2型活性化のマーカを発現するミクログリアの数は20%~25%程度少ないという結果が得られた。線条体のミクログリアのM1、M2型マーカ遺伝子発現は、黒質におけるのと同様な傾向にあった。

 これらの結果からミクログリアのCav1.2 チャネルの発現を低下させた場合、MPTP投与により誘導されるミクログリアの活性化パターンが野生型と比較して変化する(炎症促進性のM1型が多くなり、炎症抑制のM2型が少なくなる)ことが明らかになった。このようなミクログリア活性化パターンの変化によって、黒質に存在するドーパミン神経細胞死が促進され、パーキンソン病様症状が悪化すると考えられる。したがって、ミクログリアにおけるCav1.2チャネルの本来の機能として、M1型活性化を抑制しM2型活性化を促進することにより神経細胞を保護するように働く可能性があると思われる。


Cav1.2 KD マウスのミクログリアはMPTP処理によりM1型活性化が促進され、M2型活性化が抑制されるため、Cav1.2 KD マウスではドーパミン神経細胞死が促進される

■研究成果の意義

 黒質のドーパミン神経細胞にはL型カルシウムチャネル、Cav1.3が存在し、このチャネルの活性を抑制するとドーパミン神経細胞死が抑制されると考えられている。最近、L型カルシウムチャネル拮抗薬の1つイスラジピンのパーキンソン病に対する治療効果を調べる臨床試験が行われたが、結果は思わしくなかったことが知られている。

 本研究の成果から考えられることはイスラジピンがミクログリアのCav1.2チャネルも同時に阻害したことにより神経細胞のCav1.3チャネルの阻害によってもたらされる神経細胞保護的効果が相殺されたのではないかということである。したがって、L型カルシウムチャネル拮抗薬をパーキンソン病治療に応用する場合は、Cav1.2チャネルの阻害効果の少ないもの、よりCav1.3チャネルに対する選択性の高いものが望ましいと考えられる。


ジヒドロピリジンのドーパミン神経に対する作用をミクログリアに対する作用。パーキンソン病においてドーパミン神経のCav1.3チャネルを阻害して神経保護作用を発揮するだけでなく、ミクログリアのCav1.2チャネルを阻害することにより神経変性を促進してしまう可能性がある。